2013-08-19

Close-Up 照沼光治

照沼光治の描く風景は、郷愁を抱かせる。このような風景が現実にあるのだろうかと訝ってしまうほどに美しく、けれどどこかで出会ったことがあるかのような懐かしさがこみ上げてくる。

季節、天候、時間によってとどまることなく移ろいゆく自然がほんの一瞬垣間見せる実にさまざまな表情。

それをとらえることを可能にしたのは照沼光治独特の技法「アクリルスクラッチ」である。目を近づければ近づけるほどに、その繊細な線描、豊かな色使いに思わず吸い込まれそうになる。

いつまでも日本に残っていてほしい、そう思わせる美しい風景だ。

「四季の風景から受ける瞬時の感動を基に作画しています。刻々と移りゆく無垢な自然に対面した時の印象を大切にし独自の技法(アクリルスクラッチ)で私流心象風景を描いています。」

照沼光治

照沼光治独自の技法「アクリルスクラッチ」はまずアクリル絵具で描き、そして細かく“スクラッチ(ひっかく)する”作業です。スクラッチすることで、非常に繊細な表現が可能になります。

そ もそもは秋の早朝、木の枝にかかる結露のきらめきを表現するのに、面相筆*でも表現しきれないと感じたときに、ナイフで 引っ掻いたのが始まりでした。下地にはジェッソ**を薄く30回引いてから描きます。そしてスクラッチして出したい色を仕込んでから絵を描き、その上から スクラッチします。

(照沼画伯・談)

*細部を描くのに用いる穂先の極めて細く長い画筆
**炭酸カルシウムとチタニウムホワイトの顔料からできた純白の地塗り剤。絵具の発色と定着を助け、作品の仕上がりを引き立てます。

描いている風景には、それぞれイメージのもととなった場所があります。「白樹」などは奥日光です。高校野球で甲子園を目指していた頃、負けた翌朝に見た美しかった風景を思い出しながら描いたものです。あくまでもイメージで描いている心象風景なので、八ヶ岳をイメージしながら描いても、八ヶ岳そのものの形になることはありません。

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